高専の5年は、なぜ学位にならないのか。
7月30日の骨子案が残した、四つの宿題。
要点:文部科学省「高等専門学校の機能強化に関する検討会」は令和8年7月30日の第3回で、中間整理の骨子案を示しました。高専本科の卒業者に学位授与を可能とすることが必要であり、法制的な観点も含めて検討が求められる、と書かれています。高専卒業者が名乗る「準学士」は、学校教育法に定めのある称号であって、学位ではありません。短期大学は平成17年10月1日に学位へ移りましたが、高専は残りました。骨子案は学位授与について、四つの検討事項を同時に並べています。
学校教育法第百二十一条は、たった一行です。「高等専門学校を卒業した者は、準学士と称することができる。」5年一貫の課程を修めた人が受け取るのは、この一行が根拠になっています。
そして、この一行には「学位」という語が入っていません。第百四条が大学の卒業者に「学士の学位を授与する」と書いているのとは、条文の形からして違います。長く、あまり話題になってこなかった違いだと思います。それが今年、政府の文書と検討会の資料に何度も現れるようになりました。
令和8年7月30日16時から18時にかけて、文部科学省で「高等専門学校の機能強化に関する検討会」の第3回が開かれました。議題の三つめが「中間整理の骨子案」です。公開された資料には、こう整理されています。
高専卒業者が学位を有しないことにより不利益が生じている実態等を踏まえ、高専における学修成果を国際的に通用する形で適切に評価するため、高専本科卒業者に「学位授与」を可能とすることが必要であり、法制的な観点も含めて検討が求められること。(【資料3】高等専門学校の機能強化に関する中間整理骨子案)
「称号」と「学位」は、何が違うのか
先に、言葉の整理をしておきます。この違いを説明した文部科学省の資料が残っているので、そちらを借ります。短期大学士の制度が始まったときのパンフレットです。
そこでは「学位」を、①学術の中心である大学が与えるもの、②一定水準の教育を受け、知識・能力を持つと認められる者に与えられるもの、③授与された学位は国際的にも通用するもの、と説明しています。対する「称号」については、こう書かれていました。
「称号」は、特定の学校を卒業したことについて本人が称することができるもので、公に一定の価値・栄誉がありますが、国際的には、どのような知識・能力を持つか理解され難いことがあります。(文部科学省「新しい学位制度がスタートします」)
つまり、国内で通じないという話ではありません。国内では、高専卒業者に大学への編入学資格が認められています。困るのは境界を越えたときで、骨子案が「国際通用性」という見出しでこの項目を扱っているのも、そこに理由があります。
短期大学は21年前に移り、高専は残った
ここで、少しさかのぼります。準学士という称号を持っていたのは、高専だけではありませんでした。短期大学の卒業者にも、かつては準学士の称号が与えられていました。
それが変わったのが平成17年10月1日です。学校教育法の一部を改正する法律の一部が施行され、短期大学の卒業者には「短期大学士」の学位が授与されることになりました。当時のパンフレットが挙げている理由は、いま高専について語られていることと、ほとんど同じです。近年、諸外国において短期高等教育機関の修了者に学位が授与されはじめており、国際的通用性の観点から学位授与が求められていた、と。
| 卒業時に受け取るもの | 根拠 | |
|---|---|---|
| 大学(4年) | 学士の学位 | 学校教育法第104条第1項 |
| 短期大学 | 短期大学士の学位(平成17年10月1日施行) | 同法第104条ほか |
| 高等専門学校(本科5年) | 準学士の称号 | 同法第121条 |
短期大学のときは、過去の卒業者も置き去りにされませんでした。従前の準学士の称号は短期大学士の学位とみなすことになっている、と明記されています。改めて学位が与えられるわけではないけれど、扱いは揃う、という決着でした。この先例があることは、後で出てくる「既卒者への対応」を読むときに効いてきます。
学士への道は、いまもある。ただし5年では届かない
誤解を避けるために、もう一段たどります。高専を出た人が学士の学位を取る道は、現行制度にもあります。学校教育法第百四条第七項が、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構に授与の権限を与えているためです。
条文が挙げているのは、短期大学または高等専門学校を卒業した者などで、大学における一定の単位の修得またはこれに相当する学習を行い、大学を卒業した者と同等以上の学力を有すると認める者。学位規則第六条は、この「一定の学修」に、高等専門学校に置かれる専攻科のうち同機構が定める要件を満たすものにおける学修を含めています。専攻科は同法第百十九条に定めがあり、修業年限は1年以上です。
ですから、高専に学位の道がない、という言い方は正確ではありません。正確に言えば、本科の5年だけでは学位に届かず、専攻科などの上積みと機構の審査を経て初めて学士になる、という構造です。骨子案が「高専本科卒業者に」とわざわざ限定して書いているのは、この構造を前提にしているからだと読めます。
骨子案が同時に並べた、四つの宿題
では、本科卒業者に学位を出すと決めれば済むのか。骨子案は、その一文のあとに検討事項を四つ続けています。私はここが、この骨子案でいちばん実務的な部分だと思います。
| 検討事項 | 何が問われているか |
|---|---|
| 学位授与の主体 | 大学改革支援・学位授与機構を含めた主体をどう定めるか。現行では機構が審査して授与している |
| 既卒者への対応 | すでに卒業した人をどう扱うか。短期大学のときは「みなす」で処理された |
| 現行の称号の取り扱い | 準学士という称号を残すのか、置き換えるのか |
| 国際的に理解されやすい学位名称 | 何と名付けるか。短期大学士は「学士の文字を用いる」「短期大学の文字を含む」の二点で決められた |
四つ目を軽く見ないほうがよい、というのが私の読みです。名称の目的が「国際的に理解されやすい」ことである以上、日本語として据わりがよいだけでは足りません。短期大学士のときにも、諸外国で foundation degree や associate といった短期高等教育の学位が定着しつつあることが、参照されていました。
あわせて骨子案は、卒業証明書等に高専の位置づけや日本の教育資格枠組との対応関係を明記し、説明の統一を図るとしています。本科3年修了の時点で大学入学資格が認められることについても、海外で適切に理解されるよう対応が必要だと書かれていました。学位という一語だけを変えても、証明書の側が黙っていては伝わらない、ということだと思います。
学位は、三本の柱のうちの一本にすぎない
最後に、この骨子案の全体像も置いておきます。三つに分かれていました。(1)高専の「量的拡大」、(2)高専教育の「質的向上」、(3)高専卒業者の「国際通用性確保」。学位の話は(3)の先頭です。
(2)には、見過ごしにくい項目が入っています。高専の設置目的に「研究」を位置付けることが必要だ、というものです。現行の学校教育法第百十五条は、高専の目的を「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること」と定めていて、研究の語がありません。骨子案は、研究活動が実態として行われている現状を踏まえ、実態に制度を合わせる方向で書きつつ、教員の労働時間管理にも留意が必要だと添えています。制度を実態に寄せると、今度は働き方の話が付いてくる。その順序まで書いてあるのは、誠実な整理だと感じました。
(1)については、政府側の数字が公表されています。令和8年7月21日に閣議決定された日本成長戦略は、高専の学生数を令和6年度の53,305人から、少子化傾向のなかでも2040年にかけて増加させる、という目標を掲げました。現在3校にとどまる公立の高専の設置を促進する、とも書かれています。背景にあるのは、経済産業省の産業構造審議会が令和8年3月5日に示した2040年の就業構造推計で、高専卒は需要77万人に対し供給62万人、15万人の不足と見込まれていました。
検討会はまだ中間整理の骨子の段階で、これは案です。学位の名称も、既卒者の扱いも、決まっていません。ただ、決まっていないものが四つに絞られて書き出された、という状態ではあります。
今日の一歩を一つだけ挙げます。高専の在学生や保護者の方は、進学先の専攻科が大学改革支援・学位授与機構の認定を受けているかを確認しておくことをおすすめします。制度が変わるのを待たなくても、学士に届く道は現行制度の側にすでにあり、そちらは今日から使えるものだからです。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.08
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