自治体に出されていた4つの宿題のうち、
3つが通信制高校の設置者へ移りました。1つめは施設と設備です。
要点:通信制高校にかかわる法律が2026年7月23日に公布されました(令和8年法律第63号)。施行は2027年1月23日です。いちばん大きい変化は、学校の設置者に責務の条文が一本立ったことでした。1953年の制定時に自治体へ渡されていた4つの宿題のうち、施設と設備・内容と方法の改善・教員の研修の3つが設置者へ移り、総合計画づくりの1つだけが自治体に残っています。あわせて文部科学大臣が「通信教育の適正な実施及び運営の確保のための基本的な指針」を定めることになりました。その第1回会議は8月31日、傍聴の登録は8月28日正午までです。
今日のねらいは、通信制高校をめぐる法改正で誰の仕事が増えたのかを、条文の言葉そのもので確かめることです。動いたのは2026年7月23日に公布された法律で、施行はその半年後、2027年1月23日にあたります。学校の設置者、つまり学校法人や教育委員会に、これまで無かった責務の条文が一本立ちました。
数字の裏づけを先に置いておきます。文部科学省が2026年8月26日に公表した令和8年度学校基本調査の速報値によると、通信制高校の在学者は311,792人で過去最多。前年度より7千人ほど増えています。同じ年に全日制・定時制は2,845,117人で、前年度より2万9千人減りました。合計に対する通信制の比率を私が計算すると、9.9%になります。高校生のおよそ10人に1人です。
増えたのは「等」の一文字です
まず題名から見ます。もとの名前は「高等学校の定時制教育及び通信教育振興法」でした。1953年、昭和28年の法律です。改正後は「高等学校の定時制教育及び通信教育の振興等に関する法律」になります。
「等」の一文字が何を指すのかは、目的規定に書いてあります。新しい第1条は、その振興「並びに適正な実施及び運営の確保」と続けて、この二つをまとめて「振興等」と呼ぶことにしています。伸ばす話だけだった法律に、正しく回っているかを確かめる話が足されたわけです。
ここ、大事です。伸ばすことと、確かめることは、担い手が違います。だから条文の割り方も変わりました。
測り方
使った資料は三つです。1953年の制定時の条文は、名古屋大学大学院法学研究科の法令データベースにある昭和28年法律第238号の本文。2026年の改正法は、参議院が公開している成立法律のPDF(令和8年法律第63号)。改正の趣旨は、同じく参議院の議案要旨を当たりました。作業日は2026年8月27日です。
やったことは単純で、改正法が「次のように改める」と書いている条を一つずつ拾い、1953年の条文と並べ、誰が主語になっているかを見比べました。あわせて、両方の本文に出てくる語の回数を数えています。数えた範囲は、1953年の本則8条ぜんぶと、2026年の改正で丸ごと書き換えられた条・新しく足された条の合計8条ぶんです。
先に測り方の弱いところを書いておきます。2026年の改正が入る直前の条文そのものは、手に入りませんでした。公的な法令検索のページが画面を組み立てる仕組みで動いており、本紙の取得手段では本文に届かなかったためです。ですから今回並べたのは「1953年の条文」と「2026年の改正法」であって、その間の73年に19回入った改正の中で第3条がどこまで書き換わっていたかは、確認できていません。この点は後でもう一度書きます。
結果。4つの宿題のうち、3つが移りました
1953年の第3条は、見出しが「国及び地方公共団体の任務」でした。その第2項に、地方公共団体が振興を図る方法として4つの号が並んでいます。2026年の改正後、この4つがどこへ行ったかを表にします。
| 1953年の条文(第3条第2項) | 2026年改正後の位置 | 宿題を負う人 |
|---|---|---|
| 一号 総合計画を樹立すること | 第4条第2項 | 地方公共団体(残った) |
| 二号 施設又は設備を整備し、充実を図ること | 第5条第一号 | 設置者へ移った |
| 三号 内容及び方法の改善を図ること | 第5条第二号 | 設置者へ移った |
| 四号 教員の現職教育の計画を樹立し、実施を図ること | 第5条第三号 | 設置者へ移った |
移った3つは、言葉も少しずつ足されています。施設と設備には「管理運営体制」が加わりました。内容と方法の改善には「情報通信技術の活用等により」という前置きが付きました。教員の研修は、「現職教育」が「研修」になり、考慮すべき対象が「勤労青年教育の特殊性」から「在学する生徒の特性」に変わっています。
一度戻ります。自治体に残った総合計画のほうも、そのままではありません。1953年は「適正な実施及び運営に関する総合計画」でしたが、改正後は「振興等に関する総合計画」となり、対象が広がりました。ただし語尾は「策定するよう努めなければならない」で、努力義務のままです。
73年前に自治体へ渡された4つのうち、3つは学校側へ移り、1つは自治体に残ったまま努力義務にとどまりました。
板書するとこうなります。設備を直すのも、授業のやり方を変えるのも、先生の研修を組むのも、条文の上では学校を設置している側の仕事になりました。自治体に残ったのは、地域全体の計画を書くことです。
言葉の数でも見ておきます
条の割り方だけでなく、使われている語も数えました。左が1953年の本則8条、右が2026年に書き換え・新設された8条です。
| 語 | 1953年(8条) | 2026年の改正部分(8条) |
|---|---|---|
| 責務 | 0回 | 7回 |
| 任務 | 1回 | 0回 |
| 生徒 | 0回 | 3回 |
| 勤労青年 | 3回 | 1回 |
| 指針 | 0回 | 4回 |
| 連携協力 | 0回 | 7回 |
| 情報通信技術 | 0回 | 1回 |
「任務」が消えて「責務」が並んだのが、いちばん分かりやすい変化です。「勤労青年」は消えてはいません。新しい第1条は「勤労青年その他の多様な生徒」と書いており、主語ではなく例の一つになりました。かわりに「生徒」が入っています。
一つ、数字の読み間違いを起こしそうなところを断っておきます。1953年の本文には「補助」が14回出てきますが、2026年の改正部分では0回です。これは補助金の規定が消えたという意味ではありません。今回の改正が補助金の条を書き換えていないので、私が数えた8条の中に入っていないだけです。該当する条は条番号が繰り下がっただけで残っています。
ついでに条の数も見ておきます。1953年の本則は8条でした。今回の改正法は最後の条を第6条から第8条へ繰り下げたうえで3条を足しているので、改正直前の本則は6条だったと読めます。改正後は11条です。
新しく足された2つの宿題
設置者の責務には、1953年に対応するものが無い号が2つあります。第五号を先に見てください。通信教育連携協力施設における適正な教育の確保を図ること、と書かれています。通信教育連携協力施設とは、通信制の課程を置く高校と連携協力を行う施設として文部科学省令で定めるもののことです。自分で設置している場合も、他の人が設置した施設と組んでいる場合も、責務の対象になります。
もう一つが第四号で、国と地方公共団体が講じる施策に協力すること。ここは短い一文ですが、監督を受ける側の協力義務を条文に置いたことになります。
そして本則の末尾に3条が足されました。文部科学大臣が基本指針を定めること(第9条)、国と地方公共団体が学校教育法や私立学校法の権限を適切に行使すること(第10条)、国が調査研究を進めること(第11条)です。
基本指針は、これから書かれます
第9条は、指針に何を書くかまで指定しています。通信制の課程を置く高校の適正な管理運営、必要な監督と援助の実施、そして広域通信制課程についての関係自治体どうしの連携協力です。三つめには、情報の共有と意見の交換、管理運営の状況を把握するための調査の実施、という具体まで書き込まれました。
広域通信制課程というのは、学校教育法第54条第3項にいう広域の通信制課程のことで、置かれた県の外からも生徒を受け入れる形を指します。生徒が全国にいるのに、認可と監督は学校がある一つの県が担う。この形が調査の届きにくさを生んできました。そこを指針で埋めようという構えです。
ではいつ書かれるのか。附則には、施行日より前でも大臣は基本指針を定めて公表できる、という準備行為の規定があります。附則のこの部分だけは公布の日から動いています。ですから半年待つ必要がありません。
文部科学省は2026年8月25日、「通信教育の適正な実施・運営の確保のための基本的な指針等に関する検討会議」の第1回を8月31日(月)13時から15時にウェブ会議で開くと発表しました。議題は座長の選任、公開規則の制定、改正法の背景と概要、本会議の検討課題、自由討議です。議題1と2は非公開で、3から公開されます。
傍聴はYouTubeのライブ配信で、事前登録が要ります。登録の締切は8月28日(金)12時です。この記事が出た翌日のお昼です。所管は初等中等教育局高等学校振興課で、会議資料は当日を目安に同省のサイトへ載るとされています。
埋められなかった穴が四つあります
第一に、さきほど書いたとおり、2026年の改正が入る直前の条文を取得できませんでした。今回の比較は1953年の条文が相手です。第3条第2項の4つの号が73年のあいだに書き換わっていた可能性は、私の手元では消せていません。ただし見出しが「国及び地方公共団体の任務」のまま2026年まで来ていたことは、参議院の議案要旨が明記しています。
第二に、通信教育連携協力施設の範囲は文部科学省令で定めるとされていて、その省令をまだ当たっていません。いわゆるサポート校がここに含まれるかどうかは、法律の条文だけでは決まりません。
第三に、基本指針の中身はまだ何も決まっていません。8月31日はこれからです。
第四に、附則の最後で「学校教育法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第37号)の附則第7条を直しているのですが、その法律そのものには当たっていません。題名の変更に合わせた技術的な手直しに見えますが、確かめていないので、そう書くにとどめます。
四つとも、推測で埋めるところではないと考えます。
復習の1問
条文と日付をたくさん並べたので、二つだけ確かめておきます。1953年に自治体へ渡された4つの宿題のうち、2026年の改正後も自治体に残ったのはどれでしょうか。そして、その語尾はどうなっているでしょうか。
答えは、総合計画をつくること。語尾は「策定するよう努めなければならない」で、努力義務です。移った3つが設置者の責務として言い切りの形になっているのと、そろっていません。
持ち帰りは一つにします。お子さんが通う学校でも、自分が学び直しに選ぼうとしている学校でも、設備・授業のやり方・先生の研修について尋ねる先は、来年1月23日からは自治体ではなく学校を設置している法人や教育委員会になります。夜間中学のように自治体が直接に運営する場を選ぶときとは、聞く相手が違います。指針が書かれる過程を見ておきたい方は、明日のお昼までに傍聴の登録をしてください。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.27
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