考えは書けていた。
8月3日の分析が、三つの教科で同じ場所を指しています。
要点:国立教育政策研究所は2026年8月3日、令和8年度「全国学力・学習状況調査」の分析結果を公表しました。7月16日に出たのは平均値、今回はその中身です。正答率が3割台まで落ちた問題を開くと、誤答の多くは「自分の考えが書けていない」わけではありませんでした。書けていたのに点にならなかった原因は、国語・英語・算数のいずれでも似た場所にあります。そしてそれは、子どもだけの弱点とは言いにくいものでした。
調査結果の公表は、今年から三段階に分けられています。7月16日に「正答率・IRTバンド分布などの全国平均」、8月3日に「全国データに基づく分析結果」、そして9月以降に都道府県・指定都市別の分析結果。順番としては、数字が先に出て、意味が後から来る形です。
数字のほうは先の記事で扱いました。今日は後から来たほう、8月3日の分析結果を読みます。ここには、平均正答率の一覧には出てこないものが入っています。子どもたちが実際に何を書き、どこで点を落としたのか、という記録です。
まず、どんな調査だったのか
令和8年度の調査は、4月20日から5月29日にかけて実施されました。対象は小学6年生と中学3年生の全児童生徒で、標本を抜き出すのではなく全員を調べる悉皆(しっかい)調査です。教科は小学校が国語と算数、中学校が国語・数学・英語。中学校英語は今回から「話す・聞く・読む・書く」の4技能すべてがCBTで実施され、結果は正答率ではなくIRTスコアと5段階のバンド分布で示されました。
全国平均は、小学校が国語61.1%・算数56.6%、中学校が国語64.2%・数学57.4%、英語は平均IRTスコア499。ここまでが7月16日の発表です。以下で扱う個別の設問と誤答の傾向は、すべて8月3日に公表された分析結果に基づきます。
小学6年生の国語で、正答率が33.6%だった問題
もっとも低かったのは、小学校国語の大問2四です。正答率33.6%。「暑い夏を快適に過ごすための衣服のくふう」という報告文の、続きを書く問題でした。
正答した児童は、資料から「白は熱を反射し、黒は吸収する」という事実を正確に引用し、そのうえで「白い服を着る方がすずしく過ごせそうだ」という自分の考えを、引用とは別のものとして書き分けていました。
では誤答はどうだったか。ここが読みどころです。分析結果によれば、誤答の多くは考えは書けていました。足りなかったのは、本の題名や本文の一部を適切に抜き出すこと、引用部分をかぎ括弧で示すこと。つまり解答条件の側でした。国立教育政策研究所は、考えと根拠を区別して表現することを意識させる指導が重要だと分析しています。
「白い服のほうが涼しいと思います」だけでは足りない。なぜそう思ったのかを、どこから借りてきた事実なのかまで含めて示す。そこが問われていたわけです。中学校国語でも同じ傾向で、大問4四の正答率は39.3%でした。
中学3年生の英語で、いちばん低かったのは「話すこと」
英語で最も正答率が低かったのは、「話すこと」の設問19です。正答率25.8%、そして無解答率17.0%。社会的な話題について聞いた内容を踏まえ、自分の考えとその理由を英語で話す問題でした。
正答例として挙げられているのは、"Your idea is good because I often become sleepy after lunch."(昼食後はよく眠くなるので、あなたの考えは良いと思う)のように、自分の立場と理由を結び付けた発話です。特別に難しい語は使われていません。
そして誤答も、国語と似た形をしていました。賛成か反対かという考えは述べられているのに、理由が説明できない。あるいは述べた内容に矛盾がある。分析では、学力が中位のバンド3でも約3割が理由を述べられず、下位のバンド1・2では約3〜4割が無解答だったとされています。「書くこと」の設問10(2)も正答率28.4%・無解答率14.4%で、最上位のバンド5は8割以上が正答した一方、バンド1では約4割が無解答でした。
三つの教科で共通して足りなかったのは、「自分の考え」ではありません。その考えを地面につないでおく一段が抜けていました。
あわせて、聞き取りと読み取りは比較的良好だったとも報告されています。松本洋平文部科学大臣も8月4日の記者会見で、日常的な話題について必要な情報を聞き取ったり読み取ったりすることには成果があった一方、自分の考えを書いたり話したりする際に理由を示すことに課題がみられたと説明しました。受け取るほうはできている。渡すほうで止まる、という形です。
算数・数学は別の話に見えて、根はそう遠くない
算数・数学で課題として挙げられたのは、立方体の体積の求め方、基準量・比較量・割合の関係、2直線が平行になる条件の理解です。小学校は大問2(3)と2(4)、中学校は大問7(2)と8(3)の正答率が4割を下回りました。文部科学省は、図形を具体的な活用場面と結び付けて考えさせること、量と割合の違いを図で表しながら理解を深める指導が重要だと分析しています。
一見、国語や英語の話とは別物です。ただ「割合が分からない」という状態を細かく見ると、計算そのものではなく、どの数を基準に置いたのかを言えないことが多い。2直線が平行だと言うためには、何が成り立っていればよいのかを示せない。答えは出ているのに、その答えを支える条件が言えていない。私にはここが、国語や英語で起きていたことと地続きに見えます。断定はしません。教科ごとの事情は違いますし、分析結果もそれぞれの教科の言葉で書かれています。
| 教科・設問 | 正答率 | 分析で指摘された不足 |
|---|---|---|
| 小学校 国語 大問2四 | 33.6% | 考えは書けているが、引用の抜き出しやかぎ括弧という解答条件を満たしていない |
| 中学校 国語 大問4四 | 39.3% | 自分の考えが伝わるように書き表すこと、情報同士の関係の理解 |
| 中学校 英語 設問19(話すこと) | 25.8%(無解答17.0%) | 賛否は述べられても理由を説明できない、内容に矛盾がある |
| 中学校 英語 設問10(2)(書くこと) | 28.4%(無解答14.4%) | 学習した表現を実際の場面で活用する力 |
| 算数・数学(小2(3)(4)・中7(2)8(3)) | いずれも4割未満 | 立方体の体積、基準量・比較量・割合の関係、2直線が平行になる条件の理解 |
出典:国立教育政策研究所が2026年8月3日に公表した分析結果(リセマム/リシード2026年8月4日報道による整理)。正答率は全国の値。
この話を、大人の側から読むと
ここから先は調査の記述ではなく、私の受け取り方です。読み替えを一つ提案します。
「考えは書けているのに、根拠が示されていない」という指摘は、そのまま大人の文章に置き換えられるのではないでしょうか。会議で配る一枚に、結論は書いてある。だがその数字をどこから取ったのかが書かれていない。提案の理由が「必要だと考えられるため」で止まっている。引用したはずの調査名が本文に出てこない。心当たりがあるなら、それは小学6年生の大問2四で問われていたものと、形の上ではほとんど同じです。
もう一つ、英語の設問19のほうも他人事ではないと思います。あれは即興で、聞いた内容を踏まえて、立場と理由を口で言う問題でした。使う語彙は難しくない。難しいのは、時間の制約のなかで理由を組み立てて口に出す部分です。会議で意見を求められて「賛成です」だけで終わってしまう場面を、私は資料の上で何度も見かけます。
ですから、この分析結果を「今の子どもは根拠を示せない」という話として読むのは、私は正確でないと思います。示せていないのではなく、考えと根拠を分けて渡す作業そのものが、年齢を問わず難しい。難しいものを難しいまま測ったから、正答率が3割台になった。そう読むほうが、資料の書きぶりに近いはずです。
質問調査が示した、もう一本の線
同時に実施された質問調査では、いくつかの傾向が報告されています。「課題の解決に向けて自分から取り組んだ」と考える児童生徒、パソコンやタブレットの活用に自信がある児童生徒、「読書が好き」「読書は役に立つ」と考える児童生徒ほど、各教科の正答率が高い傾向。英語では、即興で考えを伝え合う活動や自分の考えを英語で書く活動に取り組んでいると受け止めている生徒ほど、平均IRTスコアが高い傾向。一方で、SNSや動画視聴等の利用時間が長い児童生徒ほど正答率やスコアが低い傾向も、引き続き見られたとされています。
ここは慎重に扱いたいところです。これらはいずれも同じ調査のなかで観察された関連であって、どちらがどちらを引き起こしたかを示すものではありません。「動画を減らせば点が上がる」とは書かれていませんし、逆の順序で説明することも可能です。関連が見えたという事実と、原因が分かったという主張は別のものです。
松本大臣は同じ会見で、授業以外の学習時間が2021年度以降減少している点にも触れ、次期学習指導要領において情報活用能力の抜本的向上を重要な検討事項の一つとして議論するとしました。今後の対応として、情報モラルに関する動画教材の提供、利用時間に関するルール作りの推奨、保護者向け啓発シンポジウムの開催などが挙げられています。学校の中だけでなく家庭でどう使い、どうルールを決めるかが重要だという認識も示されました。
次の一歩を一つだけ挙げます。ご自身が最近書いた文章を、一つ開いてみてください。メールでも、報告でも、企画の一枚でもかまいません。そこに二種類の線を引いてみます。自分の考えに一本、その考えを支えている外の事実にもう一本。
二本目が引けなかったとしたら、書き手の力が足りないのではないと思います。二本を分けて置く、という作法をどこかで教わらなかっただけです。小学6年生が33.6%で立ち止まった場所は、そういう場所でした。線を引き分けるところから始められるなら、それはむしろ、取り返しがつく種類の課題だと言えます。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.09
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