教育行政 — 2026.07.28 NO.026 / TSUGINOTE LEARN

約100年続いた「文系・理系」を、
国が見直します

技術分野の学び直しに取り組む社会人を描いたイラスト

要点:2026年7月21日に閣議決定された「骨太の方針2026 日本成長戦略」に、文部科学省の施策が反映されました。松本洋平文部科学大臣は7月24日の会見で、その柱として「文理分断からの脱却」を挙げています。約100年続いてきた文系・理系という枠組みを見直す、という趣旨です。ただし、これを「理系を増やす話」と読むと、大臣自身の説明とはずれます。数値目標と、大人の学び直しに触れてくる部分を順に見ていきます。

「文理分断からの脱却」。行政の文書としては、ずいぶん強い言い回しだと思います。分断という語を使うということは、文系と理系の区切りを、単なる分類ではなく解くべき問題として扱う、という宣言に近いからです。

文部科学省の松本洋平大臣は2026年7月24日の記者会見で、3日前の7月21日に閣議決定された「骨太の方針2026 日本成長戦略」に、同省が掲げる教育・科学技術・文化・スポーツ分野の重要施策が盛り込まれたと説明しました。そのうえで、教育改革では「文理分断からの脱却」が施策の大きな目的の一つだと強調しています。高校段階での早期の文理選択、大学における理工系学生の割合の低さ。この二つを課題として挙げ、「文理を超えた学び」への転換を目指す、という筋立てでした。

言葉は、春のうちに用意されていた

この方針は7月に突然出てきたものではありません。大臣は会見で、骨太の方針には同省が取りまとめた「人材育成システム改革ビジョン」の内容が反映されたと述べています。

そのビジョンが公表されたのは2026年4月28日です。日本成長戦略会議の人材育成分科会が「高校から大学・大学院等を通した人材育成システム改革ビジョン~人への投資の好循環による強い経済の実現~」という取りまとめを出しました。課題として挙げられたのは二種類のミスマッチです。理工・デジタル系人材や現場人材が足りない「分野ごとのミスマッチ」と、地方で専門職・現場人材が不足する「地域ごとのミスマッチ」。改革の方向性には「高校から大学・大学院等を通した人材育成システム改革により成長を目指す」と明示されました。

つまり、4月に用意された設計図が、7月に政府全体の方針へ格上げされた、という順序です。この順序は覚えておくと役に立ちます。骨太の方針は毎年出ますが、そこに載る前に、どこかの会議体で原型がつくられているからです。


数字で見ると、何を動かそうとしているのか

ビジョンには具体的な指標が置かれています。報じられている範囲で、数字が示されているものを並べます。

指標現状目標
大学全体に占める理工農・デジタル・保健系の定員35%(2024年度)5割(2040年)
博士課程入学者数1万6,212人(2025年度)2万人(2030年度)
博士号取得者数1万5,345人(2022年度)2万人(2030年度)
普通科高校の文系・理系の生徒割合同程度(2040年)

指標は全部で7つ設けられているとされ、上の表はそのうち数字が公表されている一部です。定員の35%を5割へ、というのは十数年かけた話ですが、それでも大学の定員配分としては小さくない変更でしょう。

手段のほうも、いくつか名前が付いています。高校教育改革では、国の「N-E.X.T.ハイスクール構想」を踏まえた各都道府県の高校教育改革実行計画の策定、高校教育改革のための基金を都道府県に造成して先導的な高校を支援すること、そして「高等学校教育改革交付金(仮称)」など新たな財政支援の仕組み構築。高等教育改革では、大都市の私立大学も含む理工・デジタル系人材育成の強化、公立高専(現在3校)の設置促進などが並びます。

目標は2040年、交付金の名前はまだ仮称。動き出しているのは制度設計の側で、教室の側ではありません。


「理系を増やす話」と読むと、半分外れます

ここが、今回いちばん誤解されやすいところだと思います。

大臣は会見で、育てたい人材像として二つの例を挙げました。「歴史や哲学に思いを馳せる技術者」と、「AI・情報科学を理解するビジネスパーソン」です。専門分野に加えて幅広い知識や視野をもつ人材の育成が重要だ、という文脈でした。方向は双方向で、理系側に人文知を、文系側に情報知を、という形になっています。

さらに大臣は、経済財政諮問会議で「理系が文系より重要と受け止められかねない」との指摘があったことにも触れ、「人文社会科学の重要性も積極的に発信していきたい」と述べています。指摘が出たという事実そのものが、この方針の読まれ方に危うさがあることを、政府の側も認識しているという証拠でしょう。

もっとも、定員の数値目標が理工農・デジタル・保健系に置かれている以上、資源配分としては理系側に寄る設計になっています。理念は双方向、指標は片方向。この二つが同居していることは、押さえておいてよいと思います。どちらが本音かを断定できる材料は、いまの公開情報にはありません。


大人の学び直しに、触れてくる部分

ここまでは高校と大学の話です。ではすでに学校を出た人には関係がないかというと、そうでもありません。ビジョンには「実践的職業人材の育成」という項目があり、二つの仕掛けが書かれています。

一つは、成長分野のニーズに対応したリ・スキリング推進のため、社会人のための教育プログラムの開発や、全学的な体制整備と収益化を進めること。大学が社会人向け講座を「余技」ではなく事業として回せるようにする、という趣旨だと読めます。

もう一つが契約学科です。産学が協力して設置・運営し、学位の授与を行う教育プログラムを指します。経済産業省が2026年3月19日に示した資料によれば、要件は、中長期的(10年程度)にわたり継続して学位プログラムを設置・運営できる安定的な計画、産学が連携した教育カリキュラムの制定、企業から大学への社員派遣・奨学金・現物寄附・共同研究費などによる教育研究リソースの提供、の三つです。少なくとも10年以上継続して設置・運営されること、とも書かれています。認定制度は令和8年度中に公募・採択を開始し、令和9年度以降に本格運用という進め方が示されています。

企業の社員を学位プログラムの学生として受け入れることも、想定される取組の例に挙がっています。働きながら大学院で学位を取る道が、いまより制度的に整えられる可能性がある、ということです。可能性がある、という書き方にとどめるのは、対象となる分野も大学も、これから決まるからです。


まだ書かれていないこと

正直に書いておくと、この方針から個人がすぐ使える制度は、現時点ではほとんど出てきません。教育訓練給付のように、申請すれば給付が受けられる類のものではないからです。大臣自身、骨太の方針に盛り込まれた施策の実現に向けて概算要求に全力で取り組む、と述べています。予算はこれから、という段階です。

それでも、方針が出た時点で分かることはあります。国が今後10年から15年、どの分野に人を寄せようとしているか。そして、その理由を「産業の需要と人材のミスマッチ」と説明していること。この二つは、自分の学び直しの方角を決めるときの参考にはなります。もっとも、参考にするかどうかは別の判断です。国の見立てが当たる保証はどこにもありませんし、需要の予測が外れた例は過去にいくらでもあります。

今日の一歩を一つだけ挙げるなら、自分の仕事を「文系の仕事」「理系の仕事」と分類するのをやめてみることでしょうか。会見で挙がった二つの人物像は、どちらも既存の分類に収まらない人でした。分類を外して眺めたとき、いま自分に足りないのが技術の側なのか、それとも文脈を読む側なのか。それは、政策の行方を待たなくても考えられることです。

出典:ReseEd(リシード)「骨太の方針2026、文理分断からの脱却を推進…文科相7/24会見」(2026年7月27日)、同「人材育成システム改革ビジョン公表、高校改革や大学支援など」(2026年4月30日)/経済産業省 イノベーション・環境局「契約学科制度の要件等について」(2026年3月19日・参考資料)。いずれも2026年7月28日閲覧。大臣発言は上記報道により、数値は人材育成分科会の取りまとめによります。制度・数値は今後の予算編成や制度設計で変わりうるため、判断の際は一次情報の確認を推奨します。
EDITOR'S NOTE — サトス:「分断」という語を選んだ以上、片方だけを増やす政策では説明がつかなくなります。指標と理念のずれが、今後どちらに寄せて解消されるのか。そこを見ていれば、この方針の性格が分かるはずだと考えています。