生涯学習 — 2026.08.14 NO.054 / TSUGINOTE LEARN

二階建てにする案は、採られませんでした。入口が開くのは、別の四か所です

地域の図書館に人が集まり、大人たちが本や資料を囲んで学び合っている様子のイラスト

要点:中央教育審議会生涯学習分科会のワーキング・グループが、令和8年7月に報告書「社会教育主事・社会教育士の養成の在り方について」をまとめました。社会教育士の称号を取りやすくするため、講習を一階(社会教育士)と二階(社会教育主事)に分ける案が検討されましたが、採用されていません。新しい講習の総単位数は現行の8単位のまま。かわりに、導入的講習・受講資格・単位の細分化・受講方法という四か所で入口を広げる方針が示されました。大学の養成課程のほうは、22単位程度への縮減が試案として示されています。

資格や称号の制度を「取りやすくする」と言うとき、いちばん分かりやすい手は単位を減らすことです。今回は、その手が使われませんでした。

中央教育審議会生涯学習分科会に置かれた「社会教育主事・社会教育士養成等の改善・充実に関するワーキング・グループ」が、令和8年7月に報告書をまとめ、文部科学省のサイトに掲載しています。検討の出発点には、上位の特別部会が令和7年3月にまとめた「審議事項1に関する意見の整理」があり、そこにはこう書かれていました。社会教育士の称号取得が容易になるような、段階的な仕組みの検討が必要である、と。

その段階的な仕組みの具体案が、二階建てのカリキュラムでした。社会教育士として地域の学びを支援するために必要な内容を一階に置き、社会教育主事として地域全体の学びをオーガナイズするための内容を二階に積む。一階だけを修めれば社会教育士になれる、という構想です。報告書は、この分割案を選択肢に含めて検討したと明記したうえで、採らないという結論を出しています。


減らさなかった理由は、二つ書かれている

まず、そもそも削れる分量が少なかった、という話が先に来ます。

現在の講習は、社会教育主事の任用資格を前提に組まれています。ですから社会教育士だけを目指す人にとっては、必要度の低い内容が混じります。報告書が例に挙げるのは「社会教育経営論」のうち、行政担当者として必要な実務的内容です。この部分は、社会教育士にとっての学習の優先度は必ずしも高くない、と書かれています。

ところが、そこを差し引いても単位は減らないというのがワーキング・グループの見立てでした。「生涯学習概論」「生涯学習支援論」「社会教育演習」、そして社会教育経営論のうち実務的内容を除いた部分は、社会教育主事だけでなく社会教育士になるうえでも必要だと整理されています。つまり、ミスマッチに当たる部分を削っても、実際に単位数の削減につながる程度の削減にはならない。数字を動かすには足りない、という判断です。

もう一つは、講習という場そのものの役割でした。報告書は、講習が単に基礎知識を身につける場ではなく、教える側と教えられる側という二分論ではない教育観を、グループワークなど協働的な学習活動を通して身につける場だと位置づけています。そして、そこで受講生どうしの関係が結ばれることに意義を認めています。社会教育人材のネットワーク化が重要になるなかで、多様な分野で活躍する人と社会教育主事になる人が同じ教室にいることが、それ自体で成果になるという考え方です。

この二つを合わせると、分割しない結論になります。新講習は両者に共通の内容とし、総単位数は現行の8単位を維持する。そのうえで、内容の見直しと、受講の促進・裾野の拡大のための方策を進める、と報告書は書いています。


順番が、逆になる

分割しないと決めたことで、二つの資格の関係も整理されました。報告書はこう述べています。基本的に社会教育主事は社会教育士でもある。言い換えれば、社会教育士であることが社会教育主事を発令する際の要件となるような制度設計とすることが重要である、と。

社会教育士は、社会教育主事の簡易版ではありません。報告書の整理では、社会教育士であることが先にあり、そのうえで発令されるのが社会教育主事という順序になります。

社会教育主事は、社会教育法で各教育委員会に必置とされている専門的職員です。ただし報告書は、市町村における配置率が低いことが課題になっていると認めています。発令が法令上求められていることを周知し、その前提となる講習の受講を促すべきだ、というのが処方箋です。

受講する側から見ると、この二つは意味合いが違います。すでに地域で活動している人にとって、講習の受講は社会教育の素養やつながりを得て活動の質を上げるためのもので、称号の取得が目的地になります。一方、社会教育主事として発令される予定の人にとっては、講習の修了はあくまで出発点で、その後の現職研修と実務経験で資質を上げていくことが期待される。同じ8単位でも、修了後に続く道が違います。


では、どこを開けたのか

単位を据え置いたぶん、報告書は別の四か所に手を入れる方向を示しました。整理すると次のようになります。

開ける場所報告書が示した方向
導入的講習より平易かつ短期間で社会教育の基礎を学べる講習を、広く実施していく。内容を制度として一律に定めず、目的・対象者・実施者によって多様な形をとりうる緩やかな仕組みとする
受講資格民生委員や保護司としての実務経験、地域運営組織(RMO)における活動経験など、他分野の実務経験を新たな受講資格として認めることを検討する
単位の細分化と科目代替1科目2単位という現在の区切りを細分化し、他の研修等との代替(大臣認定学修)や分割履修をしやすくする
受講方法オンラインの活用、土日・夜間の実施、講習を実施する機関の増加により、身近な場所で受けられるようにする

四つのうち、いちばん新しいのは導入的講習です。これは今回の報告書で新たに提案されたもので、報告書自身が「新講習の総単位数は減らさないこととしている。そのため、社会教育の特長や基礎を手始めとして学ぼうとする者にとっては、講習受講の負担が重めであることは否めない」と書いたうえで置かれています。8単位を守った代償を、手前に別の階段を作ることで埋める設計です。

三つめの単位の細分化には、伏線があります。現在も、司書や学芸員の資格を得る際に履修した生涯学習概論を、講習の生涯学習概論の履修とみなして単位認定できる仕組みがあります。また、公益社団法人全国子ども会連合会が行う「地域推進コーディネーター研修」が、文部科学大臣の認定を受けて生涯学習支援論の履修として単位認定される例もあります。ところが報告書は、こうした認定が更に広がる兆しは見えていない、と率直に書いています。その一因として挙げられたのが、現行の科目が2単位であるために、代替するには相当程度まとまった学習量が求められる点でした。区切りを小さくすれば、代替も分割履修もしやすくなる、という理屈です。

ただし報告書は、細分化には注意も添えています。講習は全体を通じて得られる教育効果を意識して設計されるべきであり、実施機関の判断で複数の1単位科目をまとめた科目を開設できるようにして、創意工夫の余地を残すことが適当だ、としています。


名前も、変わるかもしれない

細かいようで、影響が広いのが呼称の話です。報告書は、従来の講習や社会教育士の位置づけを見直す際には、「社会教育主事講習」という呼称についても、例えば「社会教育講習」など、新講習が社会教育主事の発令を受けるためだけのものではないことが明確になるような呼称とすることが適当である、と述べています。

これは、名前を変えれば受講者が増えるという話ではありません。むしろ、いまの名前が入口をふさいでいたのではないか、という反省に見えます。行政の職に就く予定のない人が「社会教育主事講習」という名称を見たとき、自分向けの講習だとは受け取りにくい。称号の名前(社会教育士)と、そこへ至る講習の名前(社会教育主事講習)が食い違ったままだった、という指摘です。


大学の課程は、逆に単位が減る

講習が8単位を維持した一方で、大学に置かれる社会教育主事養成課程のほうは、単位数を減らす試案が示されました。現行より2単位少ない22単位程度が想定されています。内訳は次のとおりです。

科目改正試案の単位数
生涯学習概論4
社会教育経営論4
生涯学習支援論4
社会教育特講4(現行8から縮減)
社会教育実習(必修・事前事後学習を含む)2(現行1から増)
社会教育総合実践演習(仮称・新設)2または1
選択必修(社会教育演習・社会教育実習・社会教育課題研究から1科目以上)2または3
合計22

減っているのは「社会教育特講」で、8単位から4単位程度へ。増えているのは実習で、事前・事後学習を十分に確保して振り返りの機会を充実させるために1単位から2単位へ。そして、各科目で学んだ内容を統合し、学生が実際に学びの場づくりや地域づくりを企画できる実践力を育てる「社会教育総合実践演習(仮称)」を必修として新設する案が置かれています。

総単位数を減らす理由として報告書が挙げたのは、教職課程との併修の促進と、社会教育の裾野の拡大でした。ここには具体的な狙いが書かれています。教員免許制度の見直しで、教職課程において学生が身につけることが提唱されている「強み」や「専門性」の一つとして、社会教育士の称号の取得を促す、という筋道です。社会教育士の称号を持つ教員が増えれば、総合的な学習の時間や探究の時間の充実と、学校と地域の連携・協働が進むだけでなく、社会教育主事の配置率の向上にも資する、と報告書は書いています。


1万2千人という数字の位置

報告書には、現在地を示す数字が一つ出てきます。社会教育士の称号取得者は令和7年度現在で約1万2千人。制度が始まったのは令和2年度ですから、六年ほどでこの規模です。報告書はこれを踏まえて、各地域に十分な人数の社会教育士が存在することが期待されており、質的・量的な抜本的拡充を図る必要がある、としています。

この数字をどう読むかは、少し慎重になったほうがよさそうです。全国の市区町村はおよそ1,700あります。単純に割れば1自治体あたり七人前後ですが、称号取得者が均等に散らばっているわけではありませんし、社会教育の仕事に就いている人ばかりでもありません。報告書が「点として増えつつある社会教育士の活動の好事例を、線、面として地域の教育力の発揮に発展させていくことが必要」という特別部会の指摘から出発しているのは、そのためでしょう。増やすことと、つながることは別の課題として扱われています。

だからこそ、報告書は修了後の話にも紙幅を割いています。講習や養成課程の修了はあくまで出発点であり、その後の現職研修や実務経験で資質向上を図ることが期待される。行政側は、社会教育人材ネットワークの取り組みの一環として広域的な研修の機会を継続的に提供すべきで、主として都道府県がそれを進めることが期待される、という整理です。事例として紹介されているのは北海道立生涯学習推進センターの三段構えで、講習を受ける前の「社会教育入門講座」、講習後の「社会教育上級講座」、そして「社会教育士フォローアップ研修」が、社会教育主事講習を軸に配置されています。入口・本体・その後を一つの線として設計した例です。


決まっていないこと

ここまで整理してきましたが、報告書自身が「決まったのはここまで」と線を引いている点は、押さえておく必要があります。

ワーキング・グループが主眼を置いたのは、対象者や総単位数を含む制度の基本的な枠組みを示すことでした。各科目の具体的な内容や、単位数、受講資格の見直しについては、改善に向けた一定の方向性を示したうえで、専門家や実務家の知見を踏まえた更なる検討を求める、とされています。導入的講習の在り方や拡充方策も同じく引き続き検討です。ですから、いま自分が受けられるかどうかを判断する材料としては、まだ使えません。制度が変わるとしても、その先です。

いちばん遠い将来の話も一行だけ書かれています。社会教育人材が相当数に上るようになれば、社会教育に関するより高度な知見を備える人材を大学院で養成し、認証する制度について将来的に検討することも考えられる、と。これは方向の示唆であって、予定ではありません。


いま確かめられること

制度の見直しは先の話ですが、現行の講習は今年も動いています。もしこの称号に関心があるなら、次の一歩は一つだけです。現在の社会教育主事講習の受講資格に、自分のこれまでの職務や活動が当たるかどうかを、実施している大学等の募集要項で確かめてみてください。

報告書が受講資格の見直しを検討事項に挙げたのは、いまの資格要件が社会教育主事の任用資格を踏まえて組まれており、その一部を緩和する形で規定されているからです。裏を返せば、現行の枠でも該当する人が、自分は対象外だと思い込んでいる可能性があります。報告書が広げようとしている民生委員・保護司・地域運営組織といった経験は、いまはまだ資格として書かれていません。けれど、司書や学芸員として履修した生涯学習概論の単位認定のように、すでに使える道は存在しています。自分の手元にある経験と単位が、どちらの側にあるのか。確かめるのは、制度が変わってからでは遅くなります。

出典:文部科学省 中央教育審議会生涯学習分科会「社会教育主事・社会教育士養成等の改善・充実に関するワーキング・グループ」報告書『社会教育主事・社会教育士の養成の在り方について』(令和8年7月、同省サイト掲載日 令和8年7月3日)本文PDF / 同ワーキング・グループ 開催状況・審議経過(第1回 令和7年11月17日〜第8回 令和8年6月24日) / 文部科学省「社会教育士について」特設ページ(社会教育士は令和2年度から始まった称号)。単位数・科目構成は報告書に示された試案であり、制度としては未確定。各科目の具体的内容・受講資格・導入的講習の在り方は引き続き検討とされている。
EDITOR'S NOTE — サトス:この報告書で私がいちばん考え込んだのは、単位を減らさなかったことより、減らさなかった理由の書き方でした。「削っても足りない」という計算の話と、「同じ教室にいることに意味がある」という設計の話は、性質が違います。前者だけなら、いつか削れる分量が増えたときに結論は変わります。後者は、分量の問題ではないので変わりません。二つの理由が並んでいるとき、どちらが本当の理由なのかは、たいてい後から効いてくるほうです。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.14
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