これからの教育を考えはじめる紙に、
『脆さ』『不安』『不可解』と書いてありました。
要点:文部科学大臣が2026年8月21日、中央教育審議会に第5期教育振興基本計画の策定を諮問しました。対象期間は令和10年度から令和14年度、答申は令和9年末をめどとされています。諮問文は、いまの社会をVUCAに加えてBANI(脆さ・不安・非線形・不可解)の時代とも指摘されると記し、AI時代への対応を第一の観点に置きました。社会人の学び直しは「生涯にわたり学び続ける社会」の項に入っています。そしてこの計画は、教育基本法により自治体が参酌するものとされているので、数年後にはお住まいの市区町村の計画へ写ります。
今日のねらいは、この紙を最後まで開いて、自分に関わる行がどこにあるかを見つけることです。国の計画と聞くと遠い話に見えますが、教育の計画はしまいに自治体の文書へ流れていきます。順を追って確かめましょう。
まず、この紙が何なのかを押さえます
教育振興基本計画は、生涯学習から幼児教育、学校、高等教育までを一枚に載せた、国の教育の5年計画です。根拠は教育基本法第17条です。政府は基本的な計画を定め、国会に報告し、公表しなければならない、と書かれています。最初の計画は平成20年7月に作られました。以降、5年おきに第2期・第3期・第4期が作られています。
いま動いているのは第4期で、期間は令和5年度から令和9年度です。閣議決定は令和5年6月16日でした。ここから逆算すると、次の計画が必要になる時期が見えてきます。第5期の対象期間は令和10年度から令和14年度、つまり2028年4月から2033年3月までです。
諮問というのは、大臣が審議会に「考えてください」と正式に頼む手続きです。8月21日の午前、文部科学大臣の松本洋平氏から中央教育審議会会長の橋本雅博氏に文書が渡されました。文書番号は8文科教第877号。同じ日に、計画づくりを担う教育振興基本計画部会の設置案も示されています。日本教育新聞の報道によれば、中教審は令和9年末をめどに答申をまとめる予定です。
社会の見立てに、言葉が一つ増えていました
ここが今日、私がいちばん立ち止まったところです。諮問文は日本を取り巻く社会をこう記しています。
変動性・不確実性・複雑性・曖昧性(VUCA)に加え、脆さ・不安・非線形・不可解(BANI)の時代とも指摘されるように、これまで以上に流動性が高まっている状況にあり、これからの我が国を担う子供たちは、激しい変化が止まることのない時代を生きることとなります。
VUCAという語は、教育の文書でもう長く使われてきました。今回はその横にBANIが並びました。Brittle(脆い)、Anxious(不安)、Non-linear(非線形)、Incomprehensible(不可解)の頭文字です。行政の文書に置かれる語としては、ずいぶん率直な四つだと思います。
念のため申し添えますが、この語が教育の計画文書に登場したのが今回が初めてなのかどうかは、私は確認できていません。確かめられたのは、8月21日の諮問文と概要に、この四語が日本語で並んで書かれているという事実だけです。
言い方の変化ももう一つあります。第4期計画は「2040年以降の社会を見据えた」という表現でした。今回の諮問は「2040年以降の社会を捉え直し」と書いています。同じ年を見ているのに、見方を作り直すところから始める、と読めます。
検討すべき観点は五つに整理されています
概要の資料は、社会情勢の変化を五つに分けて並べていました。板書するとこうなります。
| 観点 | 諮問文が挙げていること |
|---|---|
| ①技術革新の急速な進展 | AI等を適切に活用するリテラシー、自ら問いを立てて学びを深める力。あわせて、好奇心や意欲・志、粘り強さなど「人間力」の育成。AI等の活用による教育の質の向上と、デジタルとリアルの組み合わせ |
| ②人口減少・少子高齢化 | 過疎化で地域コミュニティの維持が難しくなるなかでの、地域における教育の維持・活性化と、教育へのアクセス確保 |
| ③社会・産業構造の変容 | 理工・デジタル分野やエッセンシャルワーカーの不足。探究・文理横断・実践的な学び、留学などの越境体験。高校から大学・大学院までの一貫した人材育成。リ・スキリング等の社会人の学び直し |
| ④社会や教育現場の多様化 | 不登校、特別な支援を要する児童生徒、在留外国人の増加。教職の魅力の向上と教職員の確保。対話を通じた合意形成や、対立やジレンマを乗り越える経験 |
| ⑤ウェルビーイングの重要性 | 個人の幸福や地域・社会全体の豊かさの質を重視するSWGs(Sustainable Well-being Goals)という新しい概念。「日本社会に根差したウェルビーイング」の更なる向上 |
①で出てくる「人間力」には脚注が付いていて、令和8年7月14日に閣議決定された人工知能基本計画では創造力、思考力、判断力、適応力、コミュニケーション力などを含むものとされている、と説明されています。教育の側で新しく定義した言葉ではなく、AIの政策文書から借りてきた言葉です。ここは覚えておいてください。あとで自治体の文書を読むときに、同じ語が同じ意味で使われているかを見る手がかりになります。
大人の学び直しは、どの行に入りましたか
本紙の読者に近いところを見ましょう。リ・スキリングは③に入っています。諮問文の書き方はこうです。現時点では予想できない技術が主流となる可能性が常にあることにも留意し、「人生100年時代」において、技術の進展や社会・生活環境の変化に応じて生涯にわたり学び続ける社会を実現する観点から、リ・スキリング等の社会人の学び直しも重要となる。
読みどころは、学び直しが「人材不足への対処」の項に置かれたことです。理工・デジタル分野の人材やエッセンシャルワーカーの不足、そして社会・産業側の需要と人材供給のずれ。その並びのなかに学び直しが書かれています。個人の自己実現の話としてではなく、供給側の話として整理されている、と読めます。
この紙が、お住まいの市区町村まで届く経路
いちばん実務的な話をします。国の計画は、国だけで終わりません。教育基本法第17条の第2項に、こう書かれています。
地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。
参酌というのは、参照して考え合わせる、という意味です。義務づけではありませんが、概要の資料も、地方公共団体が教育振興基本計画や教育大綱を策定する際には国の計画を参酌することとされている、と明記しています。
ですから経路はこうなります。令和9年末ごろに答申が出る。政府が第5期計画を閣議決定する。令和10年度に国の計画が動き出す。その前後で、都道府県や市区町村が自分の教育振興基本計画や教育大綱を作り直す。そのとき、今回の五つの観点の言葉が、地域の文書に別の表現で現れます。お住まいの自治体の教育委員会がいつ計画を改定する予定かは、教育委員会のサイトで確かめられます。今日いちばん役に立つ行動は、それを一度探しておくことだと思います。
会議の場で出た意見も、二つ載っていました
日本教育新聞の記事によれば、8月21日の会合では、時代の変化に対応できるよう計画は細部まで定めず柔軟性を持たせるべきだという意見が出たほか、計画の実効性を確保するため教育行政へのAI活用を進めて機能を強化してほしいという要望もあったとのことです。
この二つは方向が少し違います。前者は書き込みすぎないようにという注文で、後者は実行する側の力を上げてほしいという注文です。諮問文の三つ目の審議事項が、まさに実効性の確保・向上を掲げていました。多様な教育データを政策の評価・改善に活用する方策、国と地方や関係機関の連携の在り方、人的・物的資源の確保の在り方です。計画を作る話と、計画を回す話が、最初から分けて置かれています。
なお同じ日に、第4次学校安全の推進に関する計画の策定も諮問されています。こちらは現行の第3次計画が令和8年度で期間を終えるため、本年度末までに答申がまとめられる予定です。猛暑や大規模災害、登下校中の事件・事故、SNSに起因する犯罪被害への対応が挙げられています。お子さんのいるご家庭には、こちらのほうが早く関わってくるかもしれません。
この記事で分からなかったこと
三つ書き残します。第一に、答申の時期です。令和9年末をめどという記述は日本教育新聞の報道によるもので、私が読んだ諮問文と概要の資料には期限が書かれていませんでした。第二に、教育振興基本計画部会の名簿と初回の日程です。8月21日の資料は設置案までで、委員は示されていません。第三に、BANIという語が教育の計画文書で使われた前例の有無です。過去の計画本文を全部当たっていないので、初出かどうかは書けません。
それから、第5期計画に何が盛り込まれるかも、まだ誰にも分かりません。今回あったのは、審議をお願いする文書が渡されたところまでです。ここから1年以上、部会での議論が続きます。
復習の1問
では、今日の1問です。「国の教育振興基本計画は、お住まいの自治体にとって何なのでしょうか」。答えは、参酌するもの、です。教育基本法第17条第2項が、国の計画を参酌して地域の計画を定めるよう努めなければならないと定めています。守らなければ罰があるという性質のものではありませんが、実際には地域の教育大綱に言葉が写ります。今日の一歩としてお勧めするのは、お住まいの自治体の教育振興基本計画か教育大綱を検索して、いまの計画がいつまでの期間なのかを一行だけ確かめておくことです。次の改定が令和10年度前後に来るなら、そこが国の第5期計画と重なる地点になります。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.23
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