教科書の論点は十あります。来週の議題に、そのどれでもないものが一つ混じっています。
要点:デジタルを含む教科書のルールを決める文部科学省の検討会議が、8月18日に第5回を迎えます。4月に示された「主な論点」は10項目。第5回の議題4つのうち3つはこの10項目に対応しますが、残る1つは10項目のどこにも立っていない問いです。会議はYouTube Liveで配信され、一般の傍聴申込は8月17日(月)正午まで。制度の骨格を外から見ておける期間は、そう長くありません。
「教科書がデジタルになる」という話は、法律のところまでは決着しています。2026年6月10日、参議院本会議で「学校教育法等の一部を改正する法律」が可決・成立しました。ただ、法律が決めたのは器の形までです。どの学年で、どの教科で、どんな形の教科書を認めるのか。その作法は、いま開かれている会議で議論されている最中です。
その会議の配布資料も議事録も、文部科学省のサイトで公開されています。次の回にいたっては、申し込めば誰でも中継を見られます。決まったあとに見出しで知るのと、決まる前に議題を見ておくのとでは、受け取り方がずいぶん変わります。今回は後者の側から、順にたどってみます。
決まったのは、器と日付です
まず、確定している部分を押さえます。改正法の概要(文部科学省)によれば、施行期日は令和9年(2027年)4月1日です。学校教育法第34条の「教科用図書」という紙を前提にした規定が改められ、デジタルな形態を含み得る「教科書」が新たに規定されます。
制度改正後のイメージとして概要資料が示しているのは、〈紙〉〈紙+デジタル〉〈デジタル〉の三つで、いずれも「教科書」に当たります。同時に、いま使われている教科用図書代替教材——紙の教科書と同じ内容を電磁的に記録したもので、教育課程の一部で教科書に代えて使える仕組み——は廃止されます。デジタルそのものが教科書になるのだから、代わりを立てる制度は要らなくなる、という整理です。
ほかに概要へ列挙されているのは、新しい教科書を無償措置の対象に加えること、音楽や動画を含む著作物の公衆送信について著作権法の権利制限を拡充すること、そして「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」についても必要な措置を講じることです。最後の一点は、あとでもう一度出てきます。
十の論点は、こう並んでいます
会議に配られている「デジタルな形態を含む新たな教科書の円滑な導入に向けた主な論点」は、10項目です。4月10日の第1回で案として示され、8月3日の第4回でも参考資料として同じ10項目が配られました。項目の並びも文言も、案の段階から変わっていません。
第4回と第5回の議題名を横に並べると、10のうち8つはすでに議題の形で会議に乗っています。下の表は議題名から読み取れる範囲の対応で、実際の議論は回をまたいで重なります。
| 主な論点(要約) | 議題として立った回 |
|---|---|
| ① 学校種・学年段階・教科特性に照らした教科書の形態のあり方 | 第5回(8/18) |
| ② 紙が効果的な場面、デジタルが効果的な場面 | 第4回(8/3) |
| ③ 認知科学・発達心理学の知見と発達段階との関係 | 第4回(8/3) |
| ④ 学習目的以外の使用への対応と情報活用能力の育成強化 | 第5回(8/18) |
| ⑤ 「手書き」する場面が減るという懸念 | 第4回(8/3) |
| ⑥ 視力低下など健康への影響 | 第4回(8/3) |
| ⑦ 諸外国におけるデジタル活用の動向 | 第4回(8/3) |
| ⑧ 次期学習指導要領を踏まえた教科書の在り方とデジタル教材との連携 | 独立の議題としては未 |
| ⑨ 発行者・採択権者に過度な負担を生じさせない留意点 | 第5回(8/18) |
| ⑩ 学校のICT環境・支援体制への留意点 | 独立の議題としては未 |
とりまとめの目標は「秋ごろ」と、4月の第1回で松本大臣が述べています。残った⑧と⑩をいつ扱うのかは、公開されている開催案内からは読み取れません。
8月3日に呼ばれたのは、教育の外側の人でした
第4回は8月3日の10時から12時。議題は、児童生徒の発達段階、健康への影響、学力等への効果・影響と諸外国の動向、そして学習活動における「手書き」の重要性の四つでした。
目を引くのは、外部有識者としてヒアリングを受けた顔ぶれです。発達段階については法政大学文学部の渡辺弥生教授。健康への影響については、東北大学大学院情報科学研究科准教授・東北大学加齢医学研究所准教授で、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授も務める細田千尋氏。いずれも教科書行政の専門家ではなく、発達心理と脳・認知の側の研究者です。
ここに、この会議の性格が出ていると私は読みます。「紙かデジタルか」を教育論の内側だけで裁こうとすると、どうしても好みの表明で終わってしまいます。発達段階や健康の話を外から持ち込むのは、尺度を借りてくる作業です。両氏の発表資料はPDFで公開されているので、要約や報道を待たずに本人の資料そのものを読むことができます。
来週の議題に、十のどれでもないものが一つあります
第5回は8月18日(火)の10時から12時。議題は四つです。一つめ、教科書の形態の在り方について(事務局からの報告と、中川座長代理からのヒアリング)。二つめ、採択、発行等の負担軽減について。三つめ、障害等による学習上の困難の軽減について(東京大学先端科学技術研究センターの近藤武夫教授へのヒアリング)。四つめ、情報活用能力について。
一つめは論点①、二つめは⑨、四つめは④に対応します。三つめだけが、10項目のどこにも立っていません。「障害」という語は、あの10項目の文面に一度も出てこないのです。
ただし、抜け落ちていた、と言い切ることはできません。先に触れたとおり、改正法の概要には教科用特定図書等の普及促進法についても必要な措置を講じる旨が入っています。法律の側では手当てされていて、指針の論点表には項目として立っていなかった。そこへ外部有識者のヒアリングが加わる、という順番です。
デジタルの教科書は、拡大、読み上げ、配色の変更、行間や文字間の調整といった、紙では難しかった読みやすさの調整ができます。学習上の困難を軽くする余地が、おそらくいちばん大きい領域です。それが論点表の外側から議題に上がってきた経緯は、秋の指針にどう書き込まれるかとあわせて見ておく値打ちがあると思います。
論点表に無い議題が立つことは、議論が漏れていた証拠にも、議論が育っている証拠にもなり得ます。どちらだったのかは、とりまとめの文面で分かります。
見に行く手順は、三つです
第5回は、報道関係者だけでなく一般の傍聴も受け付けています。YouTube Liveでの配信です。
手順は三つ。まず、開催案内のページにある傍聴受付フォームから、所属機関と氏名等を登録します。期限は令和8年8月17日(月)12時00分。受付期間を過ぎると登録できないと明記されています。次に、登録したメールアドレス宛に会議当日までに届く接続方法の案内を待ちます。最後に、当日は10時から12時のあいだ配信を開いておく。会議資料は会議開始までに文部科学省のサイトへ掲載されるので、当日の朝に一度のぞいておくと話が追いやすくなります。
議題や進行順序は変更の可能性がある、と案内には添えられています。第1回から第3回までの議事録はすでに公開されているので、その場で全部を聞き取れなくても、あとから文字で確かめられます。学校で本格的に使われ始めるのは2030年度からと報じられており、いま議論されているのは、そのときの一年生が手に取る教科書の形です。
とりまとめまでに残された回は、そう多くないはずです。この記事から持ち帰る一歩を一つだけ挙げるなら、8月17日の正午までに傍聴の登録を済ませておくこと。それだけです。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.10
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