中学の新教科は「情報技術科」ではありません。中黒一つに、案の意図があります。
要点:2026年8月3日と4日、文部科学省の新着情報に、次期学習指導要領に向けた各ワーキンググループの「取りまとめ(案)」が続けて掲載されました。そのうちの一本、情報・技術ワーキンググループの案は、小学校の総合的な学習の時間に「情報の領域」を付加し、中学校に「情報・技術科」を創設し、高等学校の情報科を充実させる、という三段構えを示しています。中学の新しい教科名は「情報技術科」ではありません。情報と技術のあいだに中黒が一つ入ります。案はその一点について、名称の説明としては異例なほど言葉を足しています。まだ「案」であって決定ではありませんが、何が議論されているかは、いまなら原文で読めます。
制度の話は、決まってから届くことが多いものです。教科書が変わり、時間割が変わり、子どもが持ち帰るプリントの様式が変わって、はじめて気づく。それから調べても、決まった理由まではもう遡れません。
いまは、その手前の時期にあたります。8月3日から4日にかけて、文部科学省の新着情報に「取りまとめ(案)」という言葉が並びました。私が確認できた範囲では、総則・評価特別部会のものが1本、各教科等のワーキンググループのものが15本、あわせて16本です。国語、算数・数学、理科、外国語、家庭、芸術、道徳、特別活動、体育・保健体育、産業教育、特別支援教育、不登校児童生徒に係る特別の教育課程、特定分野に特異な才能のある児童生徒に係る特別の教育課程、生活・総合、そして情報・技術。掲載の日付が近接しているのは、8月4日の午前に教育課程企画特別部会(第16回)が開かれ、各ワーキンググループの検討状況と「審議まとめに向けた検討」が議題に載っていたためだと考えられます。
全部を読むのは、正直なところ骨が折れます。情報・技術のものだけでPDFが6.2メガバイト、総則・評価に至っては8.1メガバイトあります。ですから今日は、そのうち一本に絞ります。教科の名前が変わるという、いちばん外側から見て分かりやすい変化が起きている一本です。
まず、名前の話から
中学校の技術・家庭科には、いま「技術分野」があります。案では、この扱いを組み替えて「情報・技術科」という教科を立てる方向が示されています。ここで引っかかってほしいのが、中黒です。
「情報技術科」と書けば、意味は通ります。むしろそのほうが自然に読めます。それでも案は、そう名づけませんでした。理由は本文にはっきり書かれています。
「情報・技術科」は、情報技術のみを扱う教科ではなく、生産技術を含む多様な技術を一体的に学び、それらを「技術の統合」を通して、領域横断的に技術による課題解決の構想・具体化を実践する機会を充実する教科である。このため、「情報技術科」ではなく、「情報・技術科」という名称とすることが適当であり、今後、その趣旨が正しく理解されるよう丁寧な周知・啓発を努める必要がある。
つまり中黒は、区切りではなく並列の印です。情報技術と、材料・生物育成・エネルギー変換といった生産技術。その両方を持つ教科なのだと、名前の側で先に宣言している。案が「丁寧な周知・啓発」と書き添えているのは、放っておけば「情報の教科ができたらしい」と読まれることを、書き手自身が予想しているからでしょう。
実際、案の構成もそのとおりになっています。情報・技術科は「情報技術」領域と「情報を基盤とした生産技術」領域の二領域からなり、後者には現行の三領域に対応する「材料加工とデジタル製作」「生物育成とデータ活用」「エネルギー変換とスマート化」に加えて、それらを横断する「技術の統合」が置かれます(いずれも仮称)。木材で作品をつくる時間が消えるのではなく、そこに3Dプリンターやセンシングデータ、シミュレータが接続される、という描き方です。
小・中・高で、どこに何が置かれるのか
名前より大事なのは配置のほうです。案が示す全体像を、学校段階ごとに整理します。内容項目の名称はすべて仮称で、現時点での検討である旨が本文に明記されています。
| 段階 | 置かれる場所 | 主な内容項目(仮称) |
|---|---|---|
| 小学校 | 総合的な学習の時間に「情報の領域」を付加(総合を「探究の領域」と「情報の領域」の2領域構成に) | 探究の流れの中で学ぶ「ミニ探究ユニット」と、独立して基礎を学ぶ「情報ブロック」を組み合わせる |
| 中学校 | 「情報・技術科」を創設。「情報技術」領域と「情報を基盤とした生産技術」領域の2領域 | 情報技術=情報の表現とデジタル化/プログラミングと自動化/情報基盤とシステム化。生産技術=材料加工とデジタル製作/生物育成とデータ活用/エネルギー変換とスマート化/技術の統合 |
| 高等学校 | 情報科を充実。情報Ⅰを存置し、選択科目としての情報Ⅱを維持(情報Ⅱは単位数を柔軟に配当) | 情報Ⅰ=情報の仕組みと社会との関わり/情報デザインとデザイン思考/データ分析とモデル化・シミュレーション/アルゴリズムとシステム開発/PBLによる課題解決の実践。情報Ⅱ=社会課題とデータサイエンス/コンテンツデザイン/AI/先端技術と情報システムデザイン/PBLによる価値創造の実践 |
小学校の「情報ブロック」という言い方が、私には印象的でした。探究の流れに自然に混ぜられる内容と、混ぜようとすると無理が出る内容がある。後者を無理に溶かさず、小さな塊として独立させる。総合的な学習の時間の趣旨を守りながら情報活用能力を確実に育てる、という二つの要請を同時に立てるための工夫だと読めます。
高校だけ、あまり動かさない
三段のうち、高等学校の扱いは慎重です。案は情報Ⅰを存置すると書き、その理由を三つ挙げています。情報Ⅰが共通必履修科目になったのは前回改訂であること。大学入学共通テストに追加されたのが令和7年度であること。そして安易な科目構成の変更は現場の混乱を招くこと。
制度の文書が「混乱を招く」と自分で書くのは、あまり見ない表現です。変えたい理由はあるが、変えないほうの理由が上回った、という判断がそのまま残っている。かわりに動かすのは中身と単位数の柔軟性で、高等教育の数理・データサイエンス・AI教育との接続を踏まえ、AIやデータサイエンスに関する内容を新たに加えるとしています。
案がいちばん強い言葉を使っている場所
ここまでは設計の話です。案の中で、私が最も長く手を止めたのは設計ではなく、それを担う人の話でした。
令和7年度時点で、中学校技術・家庭科(技術分野)の担当教員のうち、臨時免許状の所有者が543名、免許外教科担任が1,863名。高等学校情報科では、臨時免許状47名、免許外教科担任97名。この数字を挙げたうえで、案は「十分に指導体制が整備されていない危機的な課題があり、改善を一層加速させる必要がある」と書いています。
免許外教科担任というのは、その教科の免許を持たない教員が、許可を得て担当している状態です。中学校の技術分野で1,863名。教科の枠組みをどれだけ精緻に設計しても、教える人がいなければ紙の上の話になります。案がこの節をわざわざ「条件整備のあり方」として独立させ、注記に人数を書き込んでいるのは、その自覚があるからでしょう。
もう一つ、陳腐化への備えも書かれています。情報技術は動きが速く、教育内容がすぐ古くなる。そこで案は、具体的な内容項目について「情報技術側の発展を踏まえ、国が作成する授業動画において少なくとも年に1回のアップデートを図る前提」と繰り返し断っています。学習指導要領解説の一部改訂も、タイムリーに行うことが適当だとしています。十年に一度の改訂という周期の外に、年一回の更新の仕組みを別に用意しようとしている、という読み方ができます。
大人の側から読むと、どこが自分の話か
ここは学校の教育課程の話ですが、案の前提部分は、学校の外にいる読者にも関係します。案は2040年代の社会像から逆算する形をとっており、その根拠として引かれている数字が、そのまま働く側の話になっているからです。
案が引用しているのは、深刻な少子化等により2040年には生産年齢人口が約1,100万人不足するという予測(2026年1月時点)、生成AI・ロボットによる自動化等の影響で事務職などに約437万人の余剰が生じる一方、専門的・技術的職業のうちAI・ロボット等の活用を担う人材が約339万人不足するというミスマッチの指摘、そして4割以上の企業が技術革新により必要となるスキルと現在の従業員のスキルとの間にギャップを認識している一方で、社外学習・自己啓発を行っていない個人の割合が半数近くに達するという指摘です。
案はこれを、子どもに何を教えるかの理由として使っています。ただ同じ数字は、いま働いている人が何を学び直すかの理由にもなります。案が示す「高校卒業までに全員が数理・データサイエンス・AIのリテラシーレベルを身に付ける」という枠組みは、裏を返せば、いまの大人の多くがその枠組みを通っていないということでもあります。
それから、重点的な学習内容として挙げられている三つ。メディアリテラシー、AI、プログラミング的思考。案は日本について、偽・誤情報の認識率が他国より低く、発信源の確認や複数媒体の比較といった信頼性を確かめる行動の割合も大幅に低いという指摘を引いています。これは子ども向けの課題として書かれていますが、調査の対象は大人を含む居住者です。
次の一歩
今日おすすめしたい行動は、一つだけです。自分に関係のあるワーキンググループの案を、一本だけ開くこと。
お子さんが小学生なら「生活、総合」と「情報・技術」、中学生なら「情報・技術」、受験を控えているなら「外国語」や「国語」、教える側にいるなら「総則・評価特別部会」。文部科学省の各ワーキンググループのページに、PDFが1本ずつ置かれています。冒頭に目次があり、「基本的な考え方」から始まる構成はおおむね共通しているので、最初の数ページを読むだけでも、その教科で何が問題とされているかは分かります。
読むなら、いまが良い時期だと思います。これらは「案」であり、しかも「会議後修正」と付されたものが多い。文言はまだ動きます。決まってから読むと結論しか残っていませんが、案の段階で読むと、迷った跡が残っています。高校の情報Ⅰを動かさない理由に「現場の混乱」と書いてあること、教科名の中黒を守るために一段落を使っていること、免許外教科担任の人数を注記に書き込んでいること。そういう箇所は、まとめ直された文書からは消えていきます。
そして、これが決定ではないことは、もう一度書いておきます。ここから審議まとめがあり、答申があり、告示があり、移行期間があります。今日の記事に書いたことも、次に開いたときには文言が変わっているかもしれません。それでも、変わる前を見ておくことに意味はあると私は考えます。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.05
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