リスキリング実施64.6%。
うち政府の定義に合うのは何%か。
要点:みらいワークスが2026年5月27日に公表した調査では、従業員500名以上の企業で人材開発に関わる回答者のうち64.6%が「リスキリングを実施している」と答えました。ところが同じ調査で、61.0%は「職務や役割の転換は前提にしない」取り組みをリスキリングと捉えていました。政府が想定した意味に最も近い選択肢を選んだのは9.5%です。同じ言葉が二つの違うものを指しているとき、学ぶ側が確かめておける手がかりまで、順にたどります。
会社から「リスキリング研修の案内」が回ってきたとき、私たちは何を提供されているのでしょうか。新しい職務へ移るための訓練でしょうか。それとも、いまの仕事の腕を上げるための研修でしょうか。この二つは、受ける側にとっては別の話です。前者なら異動先まで含めた計画の話になり、後者なら人事評価と目標設定の話で終わります。
この問いに数字で答えようとした調査が、2026年5月27日に公表されました。人材サービスのみらいワークスが実施した「日本企業におけるリスキリングの認識とAI影響に関する実態調査2026」です。従業員規模500名以上の企業で、経営企画部・総務部・人事労務部などに2022年以前から所属し、人材研修や人材開発に関わる会社員・会社役員400名に、2026年3月19日から22日にかけてインターネットで聞いています。
数字は二段になっている
まず全体像です。「所属企業では現在、リスキリングを行っていますか」(n=400)への回答は、「全社施策として、実施している」が38.3%で最多。これに「特定部門・特定職種などに限定して実施」20.0%と「パイロット実施中」6.3%を加えて64.6%となります。三人のうち二人は、何らかの形でリスキリングが動いている会社にいる、という数字です。なお「過去も含めて実施していない」は16.0%でした。
ここで調査は、質問の順番を工夫しています。実施状況を先に聞き、そのうえで「その回答をするとき、リスキリングをどの範囲の取り組みとして捉えていましたか」を後から確認しているのです。定義を先に見せると、回答者が定義に合わせて実施状況を答え直してしまう。だから各社が日常的にこの言葉に込めている意味のまま先に答えさせた、と調査側は設計意図を説明しています。その二段目の結果が次の表です。
| 捉え方(選択肢の趣旨) | 比率(n=400) |
|---|---|
| ①学習機会を提供する。職務や役割の転換は前提にしない | 29.0% |
| ②学んだ内容を現職の業務で使わせるところまで。転換は前提にしない | 32.0% |
| ③社内公募・社内マッチングに応募できる状態まで。移るかは応募と選考次第 | 20.5% |
| ④転換先を定め対象者を選び、学習と配置転換を一連の流れとして運用 | 9.5% |
| ⑤先に配置転換を行い、その後に必要な学習をさせる | 7.3% |
| その他 | 1.8% |
①と②を合わせると61.0%。どちらも選択肢の文中に「職務や役割の転換は前提にしない」と明記されています。
言葉の出どころを確かめる
この61.0%が何とずれているのか。比較の相手は、この言葉が日本で広まったときの意味です。2022年10月3日の第210回国会・所信表明演説で、リスキリングは「成長分野に移動するための学び直し」と表現され、企業間・産業間の労働移動の円滑化と、5年間で1兆円の人への投資が並べて語られました。経済産業省の定義は「新しい職業に従事するため、または、現在の職業で必要とされるスキルの大きな変化に適応するために必要なスキルを獲得したり、身につけさせたりすること」です。
つまり、もともとは移動を含む話でした。表の④は、転換先を企業が定め、対象者を選び、学習と配置転換を一連の流れとして運用する設計で、この想定に最も近い選択肢として作られています。選んだのは9.5%。先に配置転換して後から学ぶ⑤を足しても16.8%にとどまります。
言葉が広まったことと、その言葉が指していた取り組みが広まったことは、別に数えなければならない。
正確に読んでいる会社ほど、まだ動けていない
もう一つ、注意して見ておきたい数字があります。この調査を解説した連載記事によれば、④を選んだ38名のうち、実施中(全社・限定・パイロットのいずれか)と答えたのは22名で57.9%。9名(23.7%)は「過去も含めて実施していない」と答えています。対して①を選んだ層では「全社施策として実施」が55.2%に達します。
この向きは、直感と逆に見えるかもしれません。定義を正しく押さえている側が、実行では遅れている。ただ理由は説明がつきます。研修や動画教材を全社に配ることは、人事制度を変えずに実行できます。いっぽう、転換先のポストを設計し、対象者の選定基準を決め、人事評価と接続し、受け入れる部署を用意する作業は、制度を動かさないと始まりません。射程を広く取れば展開しやすく、正確に取るほど実行の壁が高くなる。数字はその構造を映しているように見えます。ただし④の回答者は38名と少ないため、傾向の参考として扱うのが妥当です。
生成AIが、学ぶ中身を書き換えている
同じ調査は、生成AIの影響も聞いています。DX関連の重点テーマ(n=236・複数回答)では「生成AIの業務活用」が67.8%で、2位の「データ分析・データサイエンス」44.9%を大きく上回りました。他方で「データガバナンス/AIガバナンス」は16.5%です。使う技能の習得が先に走り、管理する側の整備が後ろに残っている形になります。
影響の内容(n=252・複数回答)では、「AI活用を前提に業務プロセス再設計が必要となり、必要スキル・役割が変わった」が48.0%、「将来必要な職務・役割(ターゲット像)の再定義が必要となった」が38.9%。実際に変更した内容(n=202・複数回答)の最多は「スキルテーマ」50.0%、次が「ターゲット職務・役割」43.1%でした。学ぶ中身だけでなく、学んだ先に想定される職務の像そのものが動いていることになります。
非DX側では「マネジメント・リーダーシップ」33.3%、「経営・事業戦略」30.2%が上位。習得テーマの分類では「DXと非DXの両方」が47.0%で最多(n=321)でした。デジタル一色というわけではない、というのがこの調査の見立てです。
学ぶ側から見ると、いちばん厄介な数字
推進上の最大の阻害要因(n=321)は「指導者・メンターが不足している」25.9%、「人材・スキルデータが整備されていない」24.3%、「学習・業務適用の時間が確保できない」21.5%。施策を変更できない主因(n=95)は「人員・予算不足であり、変更に着手できていない」32.6%が最多でした。
この並びは、受講する側から見るとひとつの景色になります。教材はある。しかし、学んだことを見て助言してくれる人がいない。自分の技能が社内でどう記録されているのかも分からない。時間は自分の裁量で作るしかない。会社の制度に乗るだけでは埋まらない部分が、当面は残るということです。
いま確かめておける、ひとつのこと
持ち帰りは一つに絞ります。自社の「リスキリング」が、先の表の①から⑤のどこにあたるのかを、人事の資料の言葉で確かめてみてください。判定の手がかりは、募集要項や制度説明のなかに「転換先」「受け皿」「社内公募」「対象者の選定」にあたる語があるかどうかです。あれば③以降、なければ①か②に近い設計だと読めます。
①や②だと分かったとしても、それは劣った制度という意味ではありません。いまの職務の水準を上げるアップスキリングとしては筋が通っており、この調査でもっとも広く展開されているのはその形です。ただ、職務を移る計画は自分の側で持つ必要がある、という前提が一つ立つだけです。そこで意味を持ってくるのが、教育訓練給付のような個人が主語の制度や、社外で通用する形で学習を記録しておく手段です。会社が使う言葉と自分の計画を同じものだと思い込まないこと。今日のところ、確かめられるのはそこまでです。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.07.30
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