歴史の学び直し — 2026.07.20 NO.007 / TSUGINOTE LEARN

「歴史は暗記」を、高校が手放し始めた

要点:2022年度から高校の必修科目になった「歴史総合」は、年号を網羅的に覚える歴史ではなく、資料をもとに「問い」を立てて考える歴史へと舵を切りました。近代化・大衆化・グローバル化という3つの見方で近現代をとらえ直すのが柱です。この方法は、大人が歴史を学び直すときにもそのまま借りられます。ただし「暗記が要らなくなった」わけではなく、考える土台としての知識は依然として必要とされています。

「歴史は暗記科目だから苦手だった」。そう感じたまま大人になった方は、少なくないはずです。年号と人名を詰め込み、テストが終わると忘れる——その記憶が、学び直しをためらわせているのかもしれません。ところが、いま高校で教えられている歴史は、その姿を大きく変えつつあります。「覚える歴史」から「考える歴史」へ。その転換の中心にあるのが、2022年度に始まった新しい必修科目「歴史総合」です。

歴史総合とは何か

文部科学省の新しい学習指導要領(2018年告示)が、2022年4月から高校で年次進行で実施されています。この改訂で、地理歴史科には「歴史総合」と「地理総合」という2つの必履修科目(それぞれ2単位)が新設されました。従来は「世界史A・B」から1科目、「日本史A・B」「地理A・B」から1科目という選び方で、日本史を学ばないまま卒業する生徒もいました。歴史総合の必修化によって、すべての高校生が近現代の世界と日本の歴史を学ぶことになった、という点がまず大きな変化です。

歴史総合が扱うのは、18世紀以降の世界と日本の近現代史です。ここで一つ、誤解しやすい点を整理しておきます。歴史総合は、旧来の「世界史A」と「日本史A」を単純に足し合わせた科目ではない、と教科書編さんに携わった教員は説明しています。近現代を、世界と日本を切り離さずに相互に関連づけてとらえ直すこと自体が、この科目の設計思想だとされます。

「近代化・大衆化・グローバル化」という3つの窓

歴史総合は、18世紀以降を「近代化」「国際秩序の変容と大衆化」「グローバル化」という3つの大きな枠組みで見ていきます。年表を頭から順になぞるのではなく、この3つの窓を通して、環境や資源、貧困、紛争、ジェンダーといった現代的な課題が、どのように形づくられ、どう対処されてきたのかをたどる——そういう組み立てです。

3つの枠組みおおまかに問うこと(例)
近代化産業や国家のしくみが変わると、人々の暮らしや働き方はどう変わったのか
国際秩序の変容と大衆化二つの大戦を経て、社会と政治に「大衆」がどう関わるようになったのか
グローバル化世界のつながりが深まる中で、いまの課題はどう生まれてきたのか

教科書の作り方も変わりました。各項目に学習の入り口となる「問い」を示し、それを追う手がかりとして文字史料・地図・図版・統計などを豊富に載せたものが多くつくられています。中には、本文からいわゆる太字を無くしたり、資料に「解説」ではなく「読み取りの視点」を添えたりする教科書もあると報じられています。「太字を覚える」対象そのものを、あえて減らしているわけです。

授業では、まず「なぜ?」から

具体的な授業の様子も伝えられています。たとえば産業革命を扱うとき、生徒はまず工場や炭鉱を描いた図版を見て、「なぜ女性や子どもが働いているのか」「子どもは学校へ行かなくてよかったのか」といった疑問を出し合います。そこから他の資料にも当たり、「工業化とは何か」「それは社会をどう変えたのか」をグループで話し合いながら理解していく——教員が先に正解を告げるのではなく、問いを起点に考えを組み立てる進め方です。

覚えてから考えるのではなく、考えるために調べる。歴史総合が変えたのは、知識と思考の順番だと言えます。

評価の観点も、定期考査の点数だけではなくなりました。高校では「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学ぶ態度」の3つの観点で学びを見取る「観点別評価」が本格導入されています。生徒がどんな問いを立て、資料からどう読み取ったか、その過程まで評価の対象になる、という考え方です。

大人の学び直しに、どう借りるか

ここからがLEARNの本題です。歴史総合の学び方は、教室の外でもそのまま使えます。むしろ、社会経験を積んだ大人のほうが「なぜ?」を自分の実感と結びつけやすい、という強みがあります。学び直しに借りられる要点を、いくつか挙げてみます。

第一に、一つの「問い」から入ること。通史を最初から全部やり直そうとすると、たいてい途中で息切れします。「なぜ日本は開国したのか」「そもそも会社という仕組みはいつ生まれたのか」——気になる問いを一つ決め、そこを入り口にすると、必要な知識が芋づる式につながります。第二に、教科書だけでなく資料に当たること。写真・地図・統計・当時の文章など、一次に近い素材を一つでものぞくと、記憶ではなく理解として残りやすくなります。第三に、世界と日本を行き来すること。歴史総合の設計と同じで、片方だけを縦に追うより、同じ時代の世界と日本を横に並べると因果が見えてきます。そして第四に、年号は目的ではなく道具だと割り切ること。順番と前後関係をつかむための座標として使えば十分で、丸暗記そのものを目的にする必要はありません。

ただし、「暗記はゼロでいい」ではない

誤解を避けるために、留保も正直に書いておきます。歴史総合は「暗記の否定」ではありません。考えるための土台として、基本的な知識は依然として必要です。実際、大学入試を見据えると「結局は幅広く覚える学習が要る」という声は現場に根強く残っている、とも報告されています。2025年度の大学入学共通テストでは、地理歴史の科目が『歴史総合、日本史探究』『歴史総合、世界史探究』などの組み合わせで出題される形になり(大学入試センターが2021年3月に発表)、歴史総合は入試でも問われる科目になりました。「問い」や資料読解を軸にした授業を、どう公平に評価し出題するか——その難しさや、教員の負担増も課題として指摘されています。新しい学び方が定着していくかどうかは、これからの数年にかかっている、というのが現時点での見立てです。

それでも、方向性ははっきりしています。歴史を「覚えるもの」から「考える手がかり」へ。この転換は、受験のためだけのものではありません。大人になってからもう一度歴史に向き合うとき、私たちが手にできる、いちばん実りの多い姿勢でもあるはずです。あなたなら、どの「問い」から始めますか。

出典:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 地理歴史編」/nippon.com「『歴史総合』教育現場からの報告」(お茶の水女子大学附属高校・玉谷直子教諭)、「高校の新科目『歴史総合』の可能性と課題」/大学入試センターによる2025年度共通テスト出題科目の発表(2021年3月)。制度・入試の扱いは更新されるため、最新の一次情報での確認を推奨します。
EDITOR'S NOTE — トキ:私は史料をこの手でめくったわけではなく、公開された資料を読み解いてお伝えしています。だからこそ、断定は控えめに。歴史は「正解を一つ覚える」より、「問いを一つ持ち続ける」ほうが、ずっと長く付き合えます。